
中高年ひきこもりの人にとって、「将来へ不安」は頭から離れない心配です。
お金、仕事、家族。悩みのタネはそれぞれですが、多くの人は出口の見みえない現実からは、逃げるしかできずにいます。
しかし心の底から聞こえてくる「まだ、大丈夫」など、優しい声にばかり耳を貸していては、事態は悪化する一方です。
今回はつい目を背けたくなる、中高年ひきこもりの不安な将来を解説しようと思います。





中高年ひきこもりを待ち受ける5つの将来
- 親との共倒れ(8050問題)
- 自殺
- 健康状態の悪化
- 人材価値の低下
- 犯罪
1の末路:親との共倒れ(8050問題)
8050問題とは、ひきこもりの子が50才を迎える頃に、両親が80才を迎え、経済的に困窮し共倒れしてしまう事象です。(8050は親と子の年代から来ている)
中高年ひきこもりの多くは、親の収入に頼りながら生きています。しかし親世代はすでに高齢なので、いずれ定年退職や介護通院などのライフイベント迎え、子を養えなくなります。その結果、経済的に困窮し、生きる手立てを失った両者が、最終的に破綻してしまうというものです。
日本は年金だけで暮らすのが難しい社会になってきているので、この問題はとしても深刻です。
2018年3月に北海道新聞で報じられた「北海道母娘孤独死事件」など、8050問題の典型と言えるでしょう。
北海道母娘孤独死事件
当局によると、死亡した女性ら2人は、アパートに居住する80代と50代の母娘。50代の娘は過去パワハラによる失業を経験してから、職に就いていなかった。母のわずかな年金に頼り、自宅に引きこもって生活していたと見られる。
2人の死亡推定時刻は、前年12月ごろ。しかし2人は社会から隔絶しており周囲は異変に気付かず。2018年1月、ガス検針員が異変を察知するまで発見されなかった。
中高年ひきこもりの55.8%が「平均未満の暮らし向き」
参考:内閣府・生活状況に関する調査(平成31年3月発表)ベースに、当事務所で制作
内閣府調査によると、中高年ひきこもりのうち55,8%が「自身や家庭の暮らし向き」について平均未満(中の下~)と回答しています。
世間では、ひきこもり=働かなくて良いという認識があるせいか、
といった意見が見られますが、実態としては、生活苦にあえぐ家庭にこそ、ひきこもりが多いところが特徴です。
親にとっては、我が子が中高年ひきこもりというだけでも大変ですが、経済的にも苦しいとなると、その苦労はひとしお。経済的な貧窮がお互いのイライラを増大し、ちょっとしたトラブルが引き金となり、家庭崩壊するケースも少なくありません。
2の末路:自殺
中高年ひきこもりの人のなかには、過酷な現実と将来への不安に耐え切れず、死を選ぶ人も存在します。
内閣府が実施した調査では、「死にたいと思ったことがあるか?」という問いに対して、29.8%のひきこもりの人が「死にたいと思ったことがある」と回答。(それ以外の人は6.2%)
ふつうの人と比べて、中高年ひきこもりの人は約4,5倍ほど「死」を意識している結果が生じました。
中高年ひきこもりの未来は、一般人はもちろん、若者ひきこもりと比べても暗いです。経済や将来など先の見えない絶望感に加えて、支援の乏しい周辺環境。自殺を選んでしまいたくなるその気持ちも、無理はないと言えるでしょう。

自殺件数は30代~50代が約半数を占めている
学生や若年者のイメージが強い自殺ですが、総数から見ると実際の発生件数はわずか数%に過ぎません。件数としては、中高年による自殺の方が、圧倒的に多いのです。
警察庁発表の「平成30年中における自殺の状況」によりますと、2018年に日本国内で確認された自殺者数は20,840人。30才~59才までの自殺者数は、そのうち約半分に相当する9,670人が該当します。(10才~19才は599人)
なお自殺の理由は、健康問題や経済問題、将来への不安など、さまざま。しかし警察庁の調査発表では、自殺者の約半分は、無職者と出ています。
3の末路:健康状態の悪化
東京都産業保健健康診断機関連絡協議会「平成28年度 職域における定期健康診断の有所見率」(表は男性のもの)
人間の体は、いつまでも健康でいられるとは限りません。
上記の表は都産健協が発表している「健康診断で所見アリ」とされた人の割合を示したデータですが、年齢を重ねるごとに有所見率が高まっているとわかります。
健康上のリスクは、そのまま採用リスクに直結します。つまり健康に問題のある中高年のひきこもりの人が、
と決意しても、採用前に健康に大きなリスクが見つかった途端、企業が採用をためらうケースはあり得ます。また仮に入社できたとしても、不慣れでストレスの大きい新人時代を過ごすうちに、体調を崩して、離職してしまう可能性もあるでしょう。
いずれにしても、中高年のひきこもりにとって、健康リスクは不安の種。このあたりは、少年・青年ニートとの大きな違いです。
精神的な病気は特に顕著
中高年ひきこもりの多くは、精神的に問題を抱えています。
内閣府が実施した「精神的な病気による通院経験」についての調査に対して、中高年ひきこもりの方のは約31.9%ほどが「ある」と回答しています。(それ以外の人は5.6%)
「ひきこもりになったきっかけ」についても、約20%ほどが「精神的な病気によるもの」と回答。精神的な病気と中高年ひきこもりには、密接な関係にあるとわかります。
当然ですが、精神的な問題を抱えてしまうと、社会復帰は困難です。
4の末路:人材価値の低下
中高年ひきこもりにとって、「人材価値の低下」は深刻です。
ご存知の通り、人材の価値は技術や経験だけでなく、年齢面が重要です。同じスキル・経験の社員を雇うにしても、30~40年以上働いてくれる20代の人材と、10年くらいしか働けない50代の人材では、労働力としての価値が天と地ほども違います。
また多くの中高年ひきこもりは、スキルや経験も乏しいです。
平均して7年以上のブランクを持つと言われる、現在の中高年ひきこもりの人たちは、既に同世代の人材と肩を並べられるほどの力がありません。これでは同じ職場に応募しても、よほど光るモノを持たない限り、採用は難しいと言えるでしょう。
まさに進むも地獄、引くも地獄。打つ手なしの状況です。
5の末路:犯罪
中高年ひきこもりの人のなかには、犯罪に走ってしまう方もいます。
過去にも色々な事件がありましたが、記憶に新しいところでは「川崎市殺傷事件」でしょう。
川崎市殺傷事件とは?
岩崎氏は両手とバックパックに合計4本の包丁を忍ばせ、登戸駅周辺で小学生らを待ち伏せ。スクールバス到着前後に児童ら襲撃し、合計20名を殺傷した。
後の調査により、岩崎氏が30年相当にわたるひきこもり状態であったこと、幼少期に差別的な扱いを受け襲撃した小学校に強い恨みを持っていたなどが判明し、大きな話題を呼んだ。
彼は高齢の叔父叔母夫婦と同居しており、「8050問題」の当事者でもありました。
なぜ、犯罪に走ってしまうのか
中高年ひきこもりの犯罪は、多くが「社会からの孤独」と「劣等感」が引き金です。
上記の表は内閣府が実施した調査に「最近6か月間で、家族以外の人と会話しましたか?」というものですが、57,5%以上の人が「会話しなかった」、「ほとんど会話しなかった」という立場を取っています。
ほとんどの人が頼るべき友人や知人を持たず、恒例の両親と共に、社会から隔絶されている様子が読み取れます。
また別の調査で「あなたはふだん悩み事を誰に相談しますか?」という問いに対して、約半数は「誰にも相談しない」を選ぶなど、自身の弱みを見せることを拒否しているのが、中高年ひきこもりの特徴です。
中高年ひきこもりの人の多くは、一度社会に出て敗れ去った経験を持つ人です。
色々な場所で挫折を経験し、悩みを抱え、その気持ちを打ち明ける相手を持ちません。ある日、それが何かのきっかけで暴走し、犯罪という形で発言しても、何ら不思議はないと言えるでしょう。